武奈ヶ岳で遭難した話

今から5年ほど前だったか。

登山始めて間もない未熟者だった頃のこと。

当時はろくな装備も持たず、

体力任せのゴリ押しばかりしていた。

簡易的な食糧と500mlペットボトル飲料のみという、

ピクニックですか?というような準備。

時間ギリギリで午後から登り始めることも珍しくはなかった。

それでもそこそこ登れてしまうから若さって怖い怖い。

そんな自惚れきっていたある日。

いつものように近場で景色のいい山はないかと、

google先生に聞いてみたところ、

「武奈ヶ岳」がなかなかいい感じ。

滋賀県大津市にあり標高は1214m。比良山地の最高峰。

これに決めた!ってことで、

午後一で向かう。


悲劇の始まり

到着し、登り始めたのが15時30分。

この時点で間違いてんこ盛りである。

何を根拠に上って帰って来れると判断したのか昔の自分に問いたい。

元気もりもりで登り始めた矢先、

クワガタを発見しじっくり観察。

通りすがりの方に「今から頂上まで行かれるんですか?」

と聞かれたが「途中まで」と曖昧な返事をしたことを覚えている。

無理だの無謀だの言われて気分を害してほしくなかったんだろう。

登山客も多く道もしっかりしている。

ただ、登っていたのは後にも先にも自分だけ。

下ってくる人と挨拶を交わしながら、

足早に頂上に向かう。

時折顔を覗かせる山々は太陽に照らされとても鮮やかだった。

呑気なことに写真を撮りまくっている。

今後の展開も知らずに。

この辺りまで登ると景色が良いが、

少し足場も悪い。

頂上はまだまだ先。

この時点で少し日が傾いているようだけれど。

陽気に頂上を目指す若かりし日の自分。

あと少し。

登頂!

辺りを見渡すととても綺麗な景色が広がっていた。

言うまでもないが誰もいない貸し切り状態。

テンションも最高潮である。

ちなみにこの時点で18時。

計算すると2時間30分といったところか。

季節は8月。

日も長く日没は19時半過ぎ。

写真を撮りつつゆっくり登ったので、

下りは1時間ちょいあればイケル!

そう思っていた。

とんだハッピー野郎である。

さぁ、下ろう。

そう思っていざ来た道を振り返ると、

夕焼けが山を赤く染めている。

この時点で18時20分。

「これって、けっこうヤバイ?」

やっと危機感が芽生え始める。

それでも眼前に広がる景色に足を止め、

カメラにおさめる。

まだまだ余裕があるようだ。

この後の絶望と引き換えに撮った写真の数々。

そして、最後の一枚。

もう日が沈みかけている。

この時点でやっと事態をのみ込み、

かなり焦りながらほぼ駆け足で下山を開始。

それでも、まだ明るいからなんとかなる!

と、思っていたが甘い。甘すぎる。

少し下ればもちろん木々が頭上を覆い光を遮る。

19時半と想定していた日没も山中では18時半。

真っ暗闇の中、山の中腹で孤立。

想定外の事態にパニックに陥る。

日があるうちに下山する予定だったので、

ライトも持参していない。

飲み物も0。

「・・・・遭難?」

そうなんです。

あの時の自分に全力で言ってやりたい。

この時考えていたこと。

“明るくなるまでこの場で待つ”、“無理やり下山”。

この二択。

前者は恐怖に耐えきれないのと、

明日も仕事があるので却下。

命の危険よりも仕事を選ぶ社畜の鑑である。

残された一択を実行に移す。

ちなみに、遭難した際に当てもなく動き回るのは厳禁。

とても危険な行為である。

夜の山を彷徨う

この後の体験は今でも鮮明に覚えている。

まず感じたのが強烈な“恐怖感“。

当時はサンショウウオ探しを始める前なので、

夜の山に免疫がない。

自然と足が震え何度もこける。

足場が見えないので当然だが。

這いつくばるように少しずつ進む。

そして、ふと気付く。

「自分の少し先に何かいる」

見えない。見えるわけがない。

でも、確かに感じる。

夜の山は野生動物の世界。

ライトや鈴があれば出会うことはそうそうないが、

この時は違う。

地面を踏みしめる音と気配で大型の動物だということはわかった。

「もしかして…クマ?」

想像が膨らみ恐怖に足が竦む。

まったく動けない。

しかし、それが功を奏したのか目前の「なにか」は去っていった。

一難去ったが、正直、“極限状態”だった。

恐怖から早く逃れたくて死に物狂いで下る。

下っているかどうかもわからない。

一回完璧に足を踏み外し、

ふわっと体が軽くなる感覚があった。

が、胸のあたりで木が突っ張り棒のように引っ掛かり、

滑落せずに済んだ。

もしかしたら崖だったかもしれない。

追い詰められたその先

何度も転び木や石に足を打ちつけ疲弊しきった頃、

おかしな感覚に気付く。

歩くだけで「登山道かそうでないか」がわかる。

登山道は踏み固められ固く、

それ以外は草木などで柔らかい。

それが足の裏の感覚だけでわかる。

視界が閉ざされ、窮地に立たされたことによって、

触覚が鋭敏になったのだろうか。

「死ぬ気になれば何でもできる」

あながち間違ってはいない。

中腰で足場を確認しながら少しずつ足を進める。

するとはるか遠くに民家の明かりが見えた。

「あと少し」

慎重に足場を選びながら唯一の光に向かう。

そして、生還。

時刻にして2時30分。

8時間近く徘徊していたことになる。

膝から崩れ落ちそうになった。

それでもまだ怖くて、車まで全力で走る。

そして力尽き寝転がる。

この時見た星空と駐車場横の自販機で買ったコーラの味は、

今でも忘れることができない。


それにしてもよく帰れたものだ。

人間とはいえ動物。

追い詰められたら予想外の力を発揮するらしい。

貴重だけれど二度としたくない経験だ。

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コメント

  1. おおぐり より:

    怪我もなく無事に帰ってこられて良かったです!ライト無しの夜山の怖さは、、、想像を絶します。
    しかし、あれだけの景色は魅力的ですね(^^)

    • KaZ より:

      この時から中途半端な気持ちで山に入らなくなりましたね。足は震えっぱなしだったので相当怖かったんだと思います。
      とても綺麗でしたね~。おかげで見惚れて下山が遅くなりましたが笑