「なんだ、またサワガニか」・・・このセリフ、水辺で生き物を探したことがある人なら一度は口にしたことがあるセリフではないだろうか。サンショウウオ、カエル、淡水魚、カメ、ヘビ、イノシシ、etc. 主役を張れる生き物たちとは裏腹に、"永遠の名脇役"として常に主役を引き立てる存在。そう、愛すべきサワガニたち。そんなサワガニの魅力を語ってみよう。
遂に辿り着いた、甲殻類観察への扉
唐突だが、自分が辿ってきた生き物観察の道を振り返る。スタート地点はなぜか東アフリカのケニアだった。今思うと何て贅沢なんだろう。ケニアにチーターを探しにいって生き物観察の道へ。数年かけてアフリカ諸国を周った後、日本でも大型哺乳類を観察できると知り、カモシカを追いかけていたことも。その後、友人の誘いで野鳥の道へ。そしてシュノーケリングを覚えてウミガメ観察にはまっていた頃も。哺乳類→鳥類→爬虫類と見事に下ってきた?感がある。そして現在どっぷりとはまっている両生類の世界に辿り着くわけだが、両生類観察の扉を開いたのと同じ時期、ある甲殻類を追いかけていた時期があった。そう、サワガニである。
主役だったあの頃
きっかけは初めて奄美大島を訪れた後だった。アマミイシカワガエルに出会い、両生類観察への扉を観音開きした感があった。そこで思い切って簡易マクロ機能を搭載したレンズ(中古)を購入する。さて、どんな生き物でマクロ撮影の練習をしようか。思いついたのが、オオサンショウウオ観察の途中で出会っていたサワガニだった。
マクロモードに切り替えたレンズを携え、自宅からほど近いポイントでサワガニを探す。そして出会った1匹。夢中で撮影した。初めて体験したマクロ撮影の面白さと相まって、サワガニが持つ安心感・安定感に包み込まれるような感覚。サワガニ特有の"癒し"だ。もうチーターを探しにケニアやタンザニアに行く必要はない。ずっとサワガニの愛おしさに包み込まれていたい。そう思ったものだ。
強敵・小型サンショウウオ現る
暫くして、 Kazuho 氏に小型サンショウウオの世界へ案内され、一気にのめり込んでしまう。するとどうだろう。ギャンブルのようにハイリスク・ハイリターンなサンショウウオの魅力に主役の座を奪われてしまい、安心・安定のサワガニは完全に脇役になってしまった。サンショウウオを探して沢に突撃するといつも現れる、安定感のあるサワガニたち。そんなサワガニを見て、いつしか自分も「なんだ、またサワガニか」・・・このセリフを口にしていたのだ。
四国の青い星
もはやサワガニが主役に返り咲くことはないのか。誰もが諦めていたはずだ。そんな時、イシヅチサンショウウオを探しに行った四国で奇跡が起こる。
・・・アオジロサワガニ!?いや、こう見えて普通のサワガニだ。四国に生息しているサワガニにはアスタキサンチンという赤色の色素が欠乏している個体群がいるらしく、彼らはご覧の通り実にcoolな体色を誇る。起死回生の逆転劇。サワガニが主役に帰り咲いた瞬間だ。この後、イシヅチサンショウウオという真の主役が現れるまでは。
燃えよサワガニ
10月。サンショウウオを探すにはなかなか中途半端な、ミッシング感ありありの時期だ。幼生は上陸してしまっていることが多いし、成体もまだ繁殖期が始まっていないので観察は難しい。
実はこの時期、サワガニが繁殖期を迎えるのだ。1年で最もサワガニが熱い。サワガニのベスト・シーズン。そんな時期だからなのか、燃えるように赤い個体をいくつも見た。心の底から美しい。「燃えよ、サワガニ!」・・・心の中でそう叫んだ。最初はカメラを準備することすら面倒臭いと思ったけど、撮影してみたらなかなか綺麗だったよ。
おわりに
「●●がいなけりゃ、どこでもエース張れる男さ。」 超有名バスケットボール漫画に登場するセリフだが、サワガニを表現するにもぴったりなセリフだと思う。●●がいなければ、どこでもエースを張れる。主役になることができるのだ。●●がいなければね。ポテンシャルは十分だ。沢の雄、サワガニ。彼らが真の主役となるその日まで、これからも彼らのことを忘れずに見守っていきたいものだ 。