サンショウウオを探していて死にかけた話

生き物を探していると熱中するあまり、

危険な状況に陥ってしまうケースがある。

生き物を育んでいるのは「自然」なわけで、

踏み込みすぎると帰って来れない場合も。


オオダイガハラサンショウウオを探して和歌山の山奥へ入る

今から二、三年前のこと。

サンショウウオ熱がどんどんヒートアップして、

観察が難しいとされる「オオダイガハラサンショウウオ」を探していた。

当時は体力に物を言わせた採集をしていたため、

ろくな装備も持たず入山を繰り返していた。

持ち物と言えば、

  • ウェーダー
  • タモ網
  • 小型クーラー
  • パンやチョコ
  • 500mlペット2本

このぐらい。

あとガムシロップ

疲労困憊で血糖値が低いときに愛飲していた。

「疲れた時にはこれ一個」

みたいなノリで。

そんな意味不明な装備で山に入り、時刻は昼前、11時ごろ。

最初に目に入ってきた看板はというと、

「滑落者、行方不明者多し」

この辺りは崖が多く、登山道とは言え足場はよくない。

少しは気に留めればよいものを「ガンガン行こうぜ」と作戦が出ていたので、

足早に奥深くへ進んでいく。

崖道を下ると川が目に入った。

川幅40m程のとても綺麗な川。

「心が洗われる」だの「癒される」だの、

人並みの感情は抱かず、

「サンショウウオはこんな幅広で水量の多い場所にはいない」

と無駄に冷静だった。

そのまま、岸際を進みさらに谷の奥へと向かう。

しかし、これと言った沢も見つからず、この時点で14時。

下山を考えなければならない時刻である。

「戻るにしても3時間かかるんか~」

疲労も溜まっていて重い腰を切り株に据えたまま視線を上げると、

300m程先の崖の上に道路が見えるではないか!

ガードレールもあるしっかりした道。

「あそこまで行けば楽に帰れる」

そう考えた自分はちょっとだけ嫌な予感がしたけれど

楽したいがために崖へと向かった。

運命の分かれ道

川から離れ人の丈以上の藪をかき分け進む。

足場は木の枝が積み重なってできており、

一歩踏み出すごとにズボっとはまる。

体力の消耗が激しい。

それでも来た道を戻ることを考えればマシだ。

ふと手を置いた場所に尻尾が見えた。

シマヘビだ。

もし“マムシ”だったらと思うとゾッとする。

この場所で噛まれれば車まで3時間はかかる。

そこから人里まで下りることを考えれば4~5時間を要する。

人生ゲームオーバーってやつだ。

ちなみにこの場所はクマの目撃例もある。

身の危険を感じながらもひたすら前へと進む。

もう戻る体力はない。

藪ゾーンを越えてやっとのことで岩肌が見えてきた。

「ここを50m程越えれば道路が見えてくるはず」

一歩一歩慎重に崖道、もとい崖を歩く。

足元ぐらいしっかりしていれば話は変わってくるのだけれど、

冒頭で言った通り「ウェーダー」である。

フェルト生地に泥が挟まりグリップ力は皆無。

正直かなりヤバい。

希望が絶望に変わる瞬間

一ヶ所目のターニングポイント。

進めるだろうけど、帰って来れない場所。

悩んだが、道路まであと少しなので進む。

二ヶ所目のターニングポイント。

これも同じ。

不可逆な場所。

そして三ヶ所目。

「戻る選択肢」はすでにない。

ここを過ぎれば道路が見えてくる。

やっとのことで越えると衝撃の光景が眼前に広がる。

「・・・・トンネルや」

道路ではなく道路手前にあるトンネルの側面の崖にいた。

登りすぎたのである。

このまま上に上り詰めたところでトンネルの真上に出るだけ。

側面を進んでも垂直岩盤の崖が連なり、

とても道路にはたどり着けない。

戻るにしても急傾斜の崖を戻らなければならない。

岩肌に体を支えられる木はなく、

思いっきり力を込めれば折れてしまいそうな頼りない枝があるばかりだ。

こんな感じ。

絶体絶命。

足が滑ってズリっといくとそのまま30m谷底へ滑落。

流石に足が震え始める。

震えると足を滑らすので平静を装って鎮める。

極限状態とはまさにこのこと。

頭ではいろいろ考え、遺書と言う文字がチラつくが、

心底生きたいと思ったので、

来た道を戻る決心をした。

時刻は15時をまわったところ。

行動しないと状況は悪くなるばかりだ。

深呼吸しながら一歩一歩確実に進む。

「足を滑らせたら」、「枝が折れたら」

そんな考えが常に頭をよぎり、膝はもうガクガク。

死を身近に感じる。

絶対に無理だと思った場所を一ヶ所また一ヶ所と越えていく。

途中で愛用していた偏向グラスが1mほど下に落ちてしまったが、

「取りに行ったら絶対死ぬやつ」

死神が手招きしているように感じ、

取りに行くことはしなかった。

命からがら崖を越えて藪ゾーンに戻って来れた。

ほっと一安心。

どころの精神状況ではない。

パニックに近い。

必死で藪をかき分け、川を下り来た道を戻る。

車まで戻った時にはすっかり日が暮れていた。

ここでやっと人心地がつく。

目の前には最初に見た看板が佇んでいた。

「もしかしたら自分も“その人”になっていたかもしれない」

それを見た時、得体の知れないものが手招きしているようで

心底ゾッとした。





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