『ヨコシマドンコ』
本来日本にはいない外来種。
だが、東海地方の河川に細々と生息している。
「見てみたい」
その場所にいてもいい存在ではないが、
その気持ちにバックグラウンド云々は関係ない。
そそくさとタモ網とウェーダーを積み込む。
長い旅の始まりである。
ヨコシマドンコ探し、開始!
時期は5月。鮮やかな新緑を横目に高速道路をひた走る。
数時間のドライブの末たどり着いた街中の何の変哲もない川。
足早に準備を済ませ、川辺に降りる。
植生はなく砂地が広がっており時折堰があるぐらいだ。
「どこを探したものか」
あまりの特徴の無さに苦労のにおいがぷんぷんする。
唯一可能性を感じたタマリに網を入れるも、
今年生まれのフナが入るばかり。
上流に行こうとも下流に行こうとも面する水路を探ってもフナフナフナ。
たまにトウヨシノボリが入りドキッとする程度だ。
それにしてもこの川、魚がいない。
圧倒的に魚種も数も少ない。
正直、まったく楽しくない!
このまま続けても敗戦濃厚と判断し、大きく上流に移動する。
外来種のオンパレード!
この頃には日は陰り少々肌寒い。
ただ移動した甲斐はあったようで生き物の気配は多い。
田んぼの水が流入し濁った河で蠢く巨大生物。
ガメラのようなその姿に「カミツキガメ!?」そう思ったが、
恐ろしく巨大なミドリガメだった。
それも一匹や二匹ではない。いたる所で水面から鼻を出している。
良さげなボサに網を入れればザリガニの嵐。
ひしめくウシオタ。
10m程先にはヌートリアが優雅に横断している。
「外来種のオンパレードや!」
ちょっとした海外気分を味わっているうちに完全に日が暮れてしまった。
この辺りは少し流れがあり、ドンコがいそうな環境とは違うためもう少し下流に足を進める。
外国エリアから脱したようで在来種がちょこちょこ顔を出し始める。
表層を泳いでいるカワムツ。
底を掬うとトウヨシノボリ。ウキゴリもいたが網には入らず。
砂地に埋まっているスッポンもいたけれど、
持って帰るのは本命が捕れるまで我慢。
スタートからおよそ3時間半。
「ここもダメか」
移動を考え始めてはいたが見当もつかず疲労も溜まってきていて、
惰性で川を下る。
急流の脇にある2m無いほどのタマリに目をやる。
ドンコはいそう。普通のドンコは。
あまり期待せず底の泥ごと掬うとなにやらハゼっぽい魚が網に入った。
なんか黄色い。そして縞々。
「!!!!!」
念願の「ヨコシマドンコ」!!
久しぶりに魚を捕ってガッツポーズが出た。
遠くで女子学生がこちらを怪しそうに見ていたが気にする余裕はない。
ことはない。普通に恥ずかしかった。
顔を隠すようにもう一度のぞき込むと確かにいる。
やっとのことでたどり着いた一匹は本当に嬉しい。
オスは腹が黄色く色付き縞模様と相まってとても美しい。
顔つきはドンコというよりもハゼっぽく愛嬌がある。
その後も立て続けに網に入り8匹のヨコシマドンコに会うことができた。
疲れも吹き飛ぶ結果だ。
一匹の魚を本気で追い求めたのは久しぶり。
マラソンのように辛ければ辛いほど記憶に残り、
たどり着くと嬉しさと達成感が込み上げる。
この後、次のゴールを求め谷を流れる川を彷徨うのだけれど、
それはまた次のお話。