寒気が猛威を振るう前日のこと。
荒れた天気になると報じられていたため、
通勤に差し支えのないようスタッドレスタイヤに交換。
というのは建前で、本当は山間部にサンショウウオを探しに行くためのタイヤ交換だった。
サンショウウオと言っても、大きい方ではない。
小さい方、“カスミサンショウウオ”である。
前から興味はあったのだけれど、
繁殖期以外は陸上で過ごすため、探し方がさっぱり分からなかった。
しかし、今は1月。
繁殖のため水辺に集まっていてもおかしくはないと素人ながら考え、
おまけに明日からの天候悪化で次はいつになるかわからない。
そんなわけで極寒の山に足を踏み入れる決意をした。
場所はゲンゴロウ採集中に見つけた山間部の小さな水たまり。
その時はとち狂ったようにゲンゴロウを探していたので気にも留めていなかったが、
ただ、「サンショウウオがいるならこんな場所だろうか」と漠然と思っていた。
そこに向かう途中、スキー場が視界に入ったのだけれど、
雪はほとんど無くむき出しの丸裸状態。
この季節のスキー場とは考え難い光景だった。
これでは商売もあがったりだろう...。
個人的には雪がない方が歩きやすくて助かるけれど。
そんな感じで道中は問題なかった。
がしかし!
到着すると一面雪景色~。
サンショウウオ探し開始!
気温とともに下がったテンション。
しかし、いざ採集を始めると簡単に急上昇する。
我ながら単純で助かる。
最高に「ハイ!」ってやつだァァァァ!
と入山し、全速力で野山を駆け巡ってポイントに到着。
クールダウンしつつ、生体や卵のうがないか確認するがいないようだ。
まだ時期が早かったかと不安を抱きながら網を入れると、
サンショウウオ?
ではない。
似たような容姿の赤い腹。
イモリ
自然界ではあまりお目にかかることがない強烈な赤!
気温が低いせいか全然動かない。
かわいそうなので、すぐさまお帰りいただいた。
その後、しばらくガサガサするも手応えはなく時間が過ぎ、
一つの結論に至った。
「まだ時期じゃない」
しかし、せっかく来たのに野山を走り回って帰るだけというのは癪なので、
可能性はかなり薄いが越冬中の個体を探してみることにした。
ただ、どんな場所で冬を越すのかネットから拾った知識しかない。
もはや掠れる程の可能性しか感じられない。
闇雲に倒木や石を持ち上げては戻し、確認しては落胆すること数十回。
また一つの結論に至った。
「これ、たぶん違うやつだ」
全然距離が縮まってる気がしない...。
むしろ遠のいてる気さえする。
時刻も16時を過ぎ、そろそろ戻らないと遭難の危険性が出てくる。
山の谷間を通る風がゴーゴーと音を立て、より一層体を冷やすが、
諦めきれないのでもう一か所だけ開拓することにした。
この選択が吉と出るか凶と出るか。
待ちに待った出会い
しばらく林道を歩き回っていると、何気ない水たまりが目に入る。
ホントに何の変哲もない小さな小さな水たまり。
「どうせいないだろう」
と期待せず水面を見ると青い顔と目があった。
!!!!!
瞬時に網を入れる。
考えるよりも先に体が動く瞬間。
そして、見慣れぬ顔と色をした生物が!
『カスミサンショウウオ』
感動の一匹!
低水温にも関わらず、かなり俊敏に動く。
おかげで写真はブレブレ。
腹部は淡い青とも紫ともとれる不思議な彩り。
背は茶色かつ斑模様でこれまた美しい。
オオサンショウウオにもこんな体色をした個体がいる。
尾の上部に特徴である黄色い線が確認できる。
光に敏感なようでカメラのフラッシュを嫌う嫌う。
そして驚いたことに、次から次へと新しい個体が顔を出している!
パッと見、相当な数が集結しているようだ。
産卵のため、この水たまりに集まってきたのだろう。
最初に網に入った子もそうだけれど、
腹部が膨れている個体もちらほら。
卵を抱えているメスかな。
卵のうは確認できなかったので、これからか。
撮影後、速やかに元の場所にリリース。
元気よく落ち葉の中へ潜って行った。
その後も時間の許す限り観察、もとい目を奪われていた。
ふと気が付けば止んでいた雪もちらつき始めたのでそそくさと撤収。
来年また会えることを願って帰路に就いた。
冬の楽しみがここにまた一つ。