というのは大袈裟だけれど、五十里は探しまわった。
飽きもせず、懲りもせず。
“標高が高い場所”というかなりアバウトな情報だけを頼りに、
新規開拓を続けていた。
ただ、どうにも旗色が良くないので、ここは一度原点に立ち返ってみることにした。
“自分の直感”という原点に。
9割方当てにならないけれど、極々まれに奇跡を起こすことがあるので捨てたもんじゃない。
本日、一か所目。
ヒダ探しの時に見つけた幅1m程の小さな沢。
水量は申し分ない。が、底質の大半が砂であることが気になる。
生き物を探す上で、“先入観”と“固定観念”に縛られることほど、
危険なことはない。
だから、自分が「ここはないな」と思う場所を探すことも時にはある。
この時もそう。
もちろん、『生息しやすい環境』はある。
ただ、そこにいるとは限らない。生き物だから。
経験の浅い人が意外と簡単に釣ったり捕まえたりできるのは、
縛られるものがなくて、視野が広いんじゃないかな。
さて、初めての場所に期待に胸を膨らませつつ、
上流まで網を入れていくと予想外の大量。
イワナなんだな~笑。
しかも結構いいサイズだから、ちょっとばかり嬉しい。
なんと言っても綺麗だしね。
釣りをしたら、さぞ楽しいことだろう。
かなり上り詰めたけれどイワナが網に入るばかり。
地形に変化も見られないので別の場所にそそくさと移動する。
サンショウウオ....か?
この場所は今までの様な沢ではなく、水量もかなり多い“渓流”。
底質は砂礫というか、ほとんど礫。
今までに探し歩いた場所とはガラッと渓相が違う。
なんと言ってもこの透明度!
そして、かなり冷たい水温。
ケツに大穴空いたウエーダーではいささか防御力に欠ける。
それでも、一個一個石を退かしていくと、
とても小さなサンショウウオが身を翻して隣の石へと逃げ込む姿が。
一瞬、「ヒダか?」とも思った。
しかし、確認しようと逃げ込んだ辺りの石を退かしても、すでに姿はなかった。
紅いサンショウウオ
あれはなんだったんだろう。
非常に悶々としながら近くの石、もとい岩を強引に退ける。
すると、今度は見間違いようがない。
『ハコネサンショウウオ』
標高2000m以上でも生息が確認され、成体は肺を持っておらず皮膚呼吸をするという大きな特徴がある。
加えて、他種と比べると長い期間幼生として水中で過ごす。その期間およそ三年。
また、福島県桧枝岐村などの地域では食用としても有名な種だ。
それにしてもデカい。8cmはあるだろうか。
我が家のカスミサンショウウオの成体と比べても遜色がない。
なんと言ってもこの色。
か、かっこいい....。
黒地にオレンジが乗り、いと美し。
しばし感動に浸る。
と同時に水に浸かって撮影していたので、ウエーダーの穴から大量の水が押し寄せ、
もうなんかいろいろ浸る。
その後も岩を退かす度にかなりの頻度で現れる。
面白いことに、サイズもまちまちでいろんな表情を拝むことができる。
ご覧の通り、立派なツメも持ち合わせていて、かっこ良さに拍車をかける。
ちなみに、このサンショウウオ、遊泳力がかなり高い。
他のサンショウウオとは比べ物にならず、あっという間に視界の外へと去っていく。
拙い網さばきなら尚更、捕獲は難しい。
これだけの個体を捕獲することができたが、これでも目視した半分ほど。
いや、もちろん十分すぎる結果だ。
写真撮影後、飼育のために大きな3匹を残して元の場所に放す。
チョロチョロと小さな体をくねらせ、石の奥へと逃げ込んでいく姿が愛くるしい。
名残惜しかったが夕暮れが迫っていたので、渋々この場所を後にした。
感動に浸り、ウエーダーも浸った。
そしてなにより、『サンショウウオの世界』にドップリ浸っている自分がいるが、
この顔を見れば当然の末路だと思ってしまう。