唐突ですが「竜」を見たことのある日本人はいないでしょう。
反対に、子供の日である5月5日に向けて飾られる「こいのぼり」を見たことの無い日本人はいないでしょう。
竜とこいのぼりの関係とは
中国の古い書物である後漢書(ごかんじょ)によると、どんな魚も登れなかった大きな滝を一匹のコイが登りきり、「竜」となったと記されています。
立身出世や入学といった狭き関門を現す「登竜門(とうりゅうもん)」とは、コイが大きな滝を登り竜になった現象が語源と言われています。
こいのぼりの始まりは平安時代に端午(たんご)の節句に向けて”男児の立身出世”を願い玄関に幟(のぼり)を掲げたことに端を発すると言われています。
コイの形をした幟が始めて掲げられたのは江戸時代中期の頃で、当時の商人が中国の登龍門の故事を参考にしたと考えられています。
この際、はっきりと言わせていただきますがコイは竜ではありません。
コイはコイ目コイ科コイ属に分類される列記とした魚類です。
かと言って、竜は何だと言われると...。あれー説明できない。
まぁそれは良しとして、コイの説明に戻りましょう。
コイは池や川、水路や湖なんかにごく普通に生息します。
公園の池なんかで見たことのある方も多いことでしょう。
そんな馴染み深い淡水魚であるコイですが、春になると産卵の為に群れで浅瀬を求めて川を登ります。
水田地帯のコイの産卵行動を観察してみよう
コイは4月から5月になると1匹のメスと数匹のオスが群れとなりグループで産卵します。
コイは本来、浅瀬に入り込みヨシや水草などの水生植物にくっつく粘着性の卵を産み付けます。
時には田んぼに入り込んで産卵をしていたなんて言われます。
とは言え、コンクリート化の進んだ現代の都会に定着したコイ達は、ビニール袋や捨てられたバイクにだって平気な顔して産卵します。
環境悪化もなんのその。コイはとても強くて、たくまししい生き物ということをお伝えしておきましょう。
4時間の降雨量が50mmを超える大雨に見舞われたとある日。
河川の水位上昇と降雨量から、これなら田んぼに水が逆流してると予想し翌日駆けつけてみました。
まるで台風一過のような晴天のもとに広がっているのは予想通り水路が溢れて氾濫した水田です。
そう、今ではなかなか見られなくなった田んぼで産卵するコイの姿を目当てにやってきたのです。
予想的中です!数百匹のコイやフナたちが田んぼという田んぼに入り込み稀に見る大産卵を繰り広げています。
ちょっと心配になりながらも、この状況には久々に大興奮しちゃいましたね。
車で移動が必要なほどの範囲で水田が水没しておりどこもかしこも魚だらけです。
メスがバシャバシャと水面をはたいて放卵したかと思うと一斉にオスたちがその場を通って精子をかけています。
この水系ってこんなにフナいたんだ...。今度フナ釣りにこようと決意したのは言うまでもありませんね。
田んぼの人的水位調整によってコイに迫る危機
田んぼの様子を確認しにきた農家さんとお話しさせていただきました。
そう、もうお気づきの方もいらっしゃるかと思います。
コイやフナたちは、ちょっと早とちりしちゃったんですね。
実は、本当ならば田植えの終わった水田に入り込み産卵をすることで、水は抜かれることなくコイやフナの赤ちゃんは外敵の少ない環境ですくすくと育つことができるんですね。
今回の大雨は4月中旬の出来事。この地方では田植えまでまだ2週間もあるんです。
残念ながら、産みつけられた卵は助かりそうもありません。
そんなことは、朝ここについた時点で僕には分かりきったことでした。
僕がちょっと心配してた、というか気になっていたのは親のコイやフナ達です。
この魚達がいかにしてこの危機を脱するのか見ものです。
段々と水位が減っていく田んぼを眺めていると、サギが一羽、また一羽とやってきます。
いや!どう考えても食えんだろ!と思いきや、小さなフナを選んで丸呑みにしてしまいました。
さらには、コンテナと網を軽トラに積んだ中国人まで現れ、田んぼの中に入りコイを捕まえ始めました。
コイやフナにとってもやっぱり産卵とは命がけの行動なんですね。
コイが竜になる瞬間を目撃することに!
産卵を途中でやめたコイ達が何やらソワソワしながら集まっている場所を見つけました。
気配を消してしばし、接近戦で観察することにします。
すると一匹のコイが畔(あぜ)に頭を突っ込みました!
地面に吸い込まれるようにして、突然コイが消えてしまいました。
田んぼの水を抜くために塩ビパイプが畔の中を通っているんですね。
田植えの際は絞めてあるパイプですが、この日は水を抜く必要があったため何処のパイプも全開でした。
コイやフナ達は、このパイプを使って上手に水路へ次々と戻っていきます。
穴の位置を見誤った一匹のコイが魚体の真横からパイプに吸い込まれそうになります。
さぁー、一世一代の大ピンチ。どうするコイさん!
ピタっとパイプに吸い込まれた次の瞬間!
何が起きたか分からず大慌てで畔に飛び上がるコイ!
力任せに畔を駆け上がります!
登竜門は4mはあるぞ!お前は突破できるのか?!
竜になれるのか?!諦めるな!行けーーー!!
やっぱり、コイはコイでした。
でも、焦って畔に乗ってしまった後に冷静に田んぼに戻ろうとする行動はさすがコイだなと思いました。
因みに、さっきの竜になりかけたコイだけはやっぱどんくさいようです。
皆が頭からすんなり帰っていく中、彼だけは頭からではなく尻尾からお帰りになられましたとさ。