ハコネサンショウウオの春パターン調査およびハコトレ(ハコネサンショウウオ成体を見つけるためのトレーニング)も終わりを迎え「燃え尽き」にも似た感情を抱きつつ悶々としていたある日。
悶々を打破する起爆剤として、難易度が非常に高そうなターゲットを選んでみた。
某地域に生息すると噂される、ピンク色のハコネサンショウウオである。
"燃え尽き感"との戦い
せっかくなので「サンショウウオ燃え尽き症候群」とは何物なのか紹介したい。
世に広く語り継がれている通り、小型サンショウウオの探索は他の生き物観察と比べると非常にしんどい。
体力的にも精神的にも。
ハードな山歩きになることが通例のため一定以上の体力が求められることは言わずもがな、アウトドア、サバイバルに関する造詣も求められる。
さらに失敗や坊主はつきものなので、簡単にはへこたれないメンタルも必要になる。
己の体力・精神力に鞭を打って苦行を続けた果てに、言葉で言い表すことができない感動が待っている。
しかし一方で夢を叶えた後の反動も非常に大きく、急速冷却に肉体と精神が適応できない。
これこそが、サンショウウオ燃え尽き症候群が発生するロジックである。
これを乗り切るソリューションは以下の2つしかない。
- サンショウウオ以外の楽しみを見つける
- さらに難易度の高いサンショウウオにチャレンジする
1としては、ガサガサを始めてそこそこ楽しめてはいるものの決定打にはなっておらず。
興奮や刺激の種類がサンショウウオのそれとは異なるため、何か満たされないものがあるようだ。
そこで今回は2を実践したというわけである。
モモイロハコネサンショウウオ?
今までも記事に書かせていただいた通り、ハコネサンショウウオといえば
・東日本は黒褐色の地色に黄色や金色の斑紋
・西日本は黒褐色の地色にオレンジや朱色の斑紋
と、ほぼ相場は決まっている。要は西の方が赤みが強いということらしい。
しかし今回探してみようと思っているのは何とピンク色のハコネだ。
写真すらほとんど見たことがなく、人づてに噂を聞いただけだ。
そんな摩訶不思議カラーなサンショウウオが存在するというオフィシャルな根拠といえば、その昔「チョコQ」という食玩シリーズから「ハコネサンショウウオ(西日本タイプ)」というかたちで発売されたフィギュアくらいしか思いつかない。
写真を検索するとそれはもう綺麗なピンク色で塗装されたサンショウウオのフィギュアが。
さすがに半信半疑キャンペーン発動である。
まさにツチノコやネッシーのようなUMAでも探すような気分。
しかしポジティブに考えればロマン溢れる探索になるに違いない。そう信じて事を進めることにした。
遂にその時が来た
実はハコトレを志したちょうど1年前から気になっていた存在で、少ない情報をかき集めて生息エリアを"ある程度"は絞っていた。
しかし、"ある程度"=20km四方というあまりにも広すぎる範囲で、だ。
結局、これ以上絞り込むことができず月日は流れていた。
途中、別のエリアで朱色のハコネサンショウウオを見つけ、それ以降はそのエリアに詰めることになった。
当該エリアの個体群の動向を春の間、継続して観察することでハコネサンショウウオ の春の行動パターンも把握することができ「ハコトレ」と呼んできた一連のハコネ観察トレーニングにも終止符を打った・・・
今こそ、サンショウウオ観察人生において最大の難敵といえるピンク色のハコネサンショウウオに挑戦するしかないのだった。
直感を信じろ
サンショウウオ観察でチャレンジとなるは次の2つ。
- 生息ポイントを絞り込むこと
2. 選んだポイントでサンショウウオが潜んでいる箇所を見極めること
今回のケースだと2は1年に渡るハコトレでクリアできるはずなので、1を何とかしなければならない。
ポイントを細かく絞り込めない場合は現地に行って目視確認しつつ、自分の第6感を信じて決めることがほとんどだ。
今回はひょんなことから第6感を刺激する情報を入手したので、現地確認すらせずいきなり第6感を信じてエモーショナルに攻めることにした。
ハコネサンショウウオ発見
現地に到着。
実はこのエリア、以前に泊まりがけでハコネを探しに来たことがあるのだがとんでもない丸坊主をキメてしまい、それ以来とてつもない苦手意識がある。
そこで真の目的を「この苦手エリアで何かしらサンショウウオを出すこと」と設定し、まずは苦手意識を克服することにした。
既にピンクのハコネは諦めモードである。
ポイントに突撃し、しばし眺める。
そして沢にあった岩を1つめくってみる。
ふむ、地形はこれまでハコネを見つけてきた他のポイントと似ているが、地質がかなり異なる。
ハコネが好まない地質だよこれ。
頭の中でそう結論付けた時点で試合終了であるが、ハコトレで鍛えに鍛えた右腕が岩を1つめくった。
出た!サンショウウオだ!
その大きさから一瞬は他の種類かと錯覚したものの、すぐに鮮やかな赤色が目に飛び込んできた。
・・・ハコネサンショウウオ
だれだ、「ハコネが好まない地質」なんて決めつけたやつは?
「決めつけ」「固定観念」ほどサンショウウオ探しの邪魔になるものはない。
最初の1匹はピンク色ではなかったが、割と赤みが強い個体だった。
もしかすると本当にピンク色のハコネサンショウウオがいるかもしれない。
ちょっとした希望を胸に、上流へ向かった。
それは実在した
上流へ行けば行くほどサンショウウオオーラが漂っているが、源頭らしき箇所がなかなか見えない。
どうやらかなり規模が大きな沢のようだ。
「初回のアタックは無理しない」をモットーとしているので、程よい箇所まで登ったところで探索することに。
探すこと数分。
石の下から鮮やかすぎる蛍光色が目に飛び込んできた。
大興奮!となるはずだったのだが・・・頭によぎった言葉は
「やっと終わったーーーー」
であった。
1年近く頭の片隅で蠢いていたサンショウウオとの勝負が遂に決着した。
今までに経験したことがない"安堵感と燃え尽き感をブレンドしたような謎感"とともに、まじまじと観察することに。
ただの個体差?
その後ももう1匹見つけ、初回のアタックは合計3匹で終了。
シーズンも終盤のため、これ以上深追いすることはやめた。
シーズン終盤で深追いしても、生息環境を荒らすだけである。
結論付けるにはデータが少ないので推測の域を脱しないが、このポイントで見つけた個体全てがピンク色ではなかったため、おそらくこの色はただの個体差だと思われる。(他のエリアと比較したら赤みが強い地域なのかもしれないが)
筆者のJust Ideaではあるが、黄色い色素が欠乏しているカエルの体色が青くなるように、黄色い色素が欠乏した関西風オレンジのハコネサンショウウオ なのでは?と感じている。
突然変異個体を見つけることはサンショウウオに限らず、生き物観察の醍醐味である。
そんなことを再認識させてくれた、不思議カラーのサンショウウオ であった。
*今回観察したハコネサンショウウオは形態的特徴や生息地からホムラハコネサンショウウオの可能性があります。